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参加型開発は必要なのか

参加型開発は必要なのか

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参加型開発とは

開発援助において、特に農村開発・社会開発といった分野では、参加型開発は基本中の基本であり、地域住民の参加を促すためのツールが各種開発されています。20年くらい前であれば、参加型開発とはまだ試行錯誤といった状態でしたが、2000年代に入るころから参加型開発に対して大きな関心が集まるようになりました。現在では、いろいろな分野で「参加型」アプローチが求められています。途上国側でも、昔のトップダウン型の行政が見直され、民主化・地方分権化の流れの中で、住民参加による計画作りや事業実施が進められてきています。

エチオピアでの参加型開発の試み

エチオピアでも参加型開発は重要な政策課題になっています。連邦政府としてICBPP(Integrated Community Based Participatory Planning:共同体ベースの統合型参加型計画作り)という手法を導入することを決定し、某国際機関がその導入を支援しています。ICBPPには数百ページにおよぶ分厚いマニュアルがあります。これによると、この手法では、農村の中の各共同体から代表者を集め、「農業」「保健」「教育」「水」「女性」など10のテーマごとにグループを分けて議論します。そして数か月間かけて地域の開発課題を取りまとめることになっています。かなりの手間とコストをかけて、徹底的に参加型による計画をつくる手法に見えます。

この国際機関は、エチオピアのいくつかの地域を対象にICBPP手法による計画策定を試験的に実施しています。私は、その一つの地域で実施されたワークショップを見学したことがあります。すでにICBPP手法に基づいて作られた各共同体の参加型計画文書があり、これを当該自治体の年次計画の中にどう盛り込んでゆくかをテーマとするワークショップでした。ここでは、結局「女子児童の退学比率の高さ」、「農業の低生産性」、「保健サービスの利用率の低さ」の三つが、参加型計画作りの作業を通じての、当該自治体の主要課題としてまとめられました。農村の各共同体の問題を住民参加で議論し、それを各共同体の計画としてまとめあげ、最終的には当該自治体の年次計画として整理するという大変にシステマティックな作業のように見えました。

ところが、このワークショップを主催していた国際機関の担当者から、後々不満を聞くことになります。その担当者は、私が見学したワークショップを同じ内容のものを、別の州の農村地域の自治体職員を相手に実施したのだそうです。そこは、社会・経済環境が前の場所とは全く異なる地域であるにも関わらず、最終的に取りまとめられた主要課題は「女子児童の退学比率の高さ」、「農業の低生産性」、「保健サービスの利用率の低さ」と、前回と同じであり、いったいこれはどうしたことなのか?と疑問に思ってしまったのだそうです。もしかしたら、中央政府の暗黙の指示があり、地方自治体の職員の判断に影響してしまっているのではないかと勘繰っていました。私は参加型計画の専門家ではなく、ICBPPについても現場で見たことが無いので、この担当者の問いかけには直接には答えられませんでした。しかし、農村地域での参加型計画作りの意義について、自らのエチオピアでの経験から次のようなことを伝えました。

エチオピアでの二つの事例

私たちが実施しているプロジェクトは三つの県を対象としていますが、その一つにArsiという農村地域があります。30年ほど前は緑に覆われた美しい土地だったそうですが、その後の森林の乱獲と住民増加により今では、見渡すばかり土漠の荒涼とした地域です。ここで村の共同体の人々を集めて、何に不自由しているか、何が必要かを聞いて回ったことがあります。するとかえってきた回答は、どこに行っても一様に「飲み水の不足」でした。本当に飲み水の確保には苦労しているようで、ロバの背中に飲料水の入ったポリタンクを載せて運んでいる人々を常に目にします。この地域では、どこに行って住民の意見を聴取してみても、返ってくる答が「飲み水の不足」でした。これでは手間をかけて参加型計画作りなどする必要は無いなぁと思ってしまいました。

一方、別の対象県の中には、首都から車で2時間ほど離れたところにあるBishoftuという町があります。人口20万弱で交通の要所にあり比較的豊かなところです。近郊に小さな湖がいくつかあるため飲み水の心配はなく、生活環境は整備されています。ここの行政官に参加型計画作りのことを尋ねたところ、意外にも、町の開発計画を作るうえで住民参加は不可欠だとの回答でした。都市部での人々のニーズは様々であり、行政が何をすればよいのか判断するには、住民の声を聴くことが重要のようです。実際、夜間の防犯のために街灯を増設してくれという要望が住民から強くよせられ、予算を付けたとのことでした。その際、夜にどの道が暗くて危ないのかについて、住民から直接に情報を得ることがとても重要だったそうです。住民参加型計画作りについての、このArsiとBishoftuでの相違を通じて考えたことは、開発が遅れ基礎的なニーズに不自由しているところでは、特に住民を集めて参加型計画作りなどせずとも、何が必要かは自明であろうということです。そして、逆にある程度基礎的ニーズが満たされているところは、より快適な生活を実現するために何が必要かについて、住民の声を聴く必要性が高いのではないかということです。

日本の自治体の経験

貧困地域の農村開発を住民参加型計画に基づいて進めようというアプローチに対して、これは全く逆行する考えです。しかし、同じような話を日本の自治体のOB職員から聞いたことがあります。私たちのプロジェクトの事業の一つとして、エチオピアの行政官を何名か日本に招き、日本の地方自治体への訪問を企画したことがあります。その際に、昔に名古屋市役所で働かれていたOB職員の方に講義をしていただきました。日本で住民参加による計画策定がどのように進められているのかについて、この方の経験を語ってもらいました。この職員の方のお話では、1980年代ごろまでは住民参加ということは全く話題にも上らなかったのだそうです。当時はまだまだ基礎的なインフラの整備が完了しておらず、電気、上下水道、基幹道路などの整備が、国や県の開発計画に従って、トップダウンでどんどん進められていました。こうした状況が少し変化したのは1990年代に入ってからで、「スポット的」に住民の声を行政に反映させることが必要とされてきました。具体例として挙げられたのは、公園の遊具でした。以前ならば、公園の遊具の選定などもトップダウンで決めてしまったのを、このころから地域住民の声を聴取して、地域で必要とされる遊具を設置するようになったとのことでした。そして、2000年代にはいると、行政に住民の声を反映させるということは、むしろ原則のように受け止められるようになったようです。このころになると基礎的なインフラは完備し、生活の質や快適さを求めるために何をすればよいかが主要課題になりました。「高齢者の生きがい」、「快適な子育て」、「美しい町並み」といったテーマが重要になります。こうした課題に取り組むには、国や県の指示を仰いてトップダウンで事業を実施するのは、やはり不適当なのでしょう。地域住民の声を聴いて、住民参加型で計画を作ることが不可欠になります。つまり開発の段階が進み、基礎的なニーズが充足されるようになって、はじめて住民参加型計画作りの必要性が行政に強く認識されるということのようです。

エチオピアでの参加型開発の本音

このOB職員の方の話はとても分かりやすく納得できるものでした。一方、この話に対するエチオピア人行政官の側の反応は、ちょっと意外なものでした。彼等によると、開発のレベルによって参加型計画作りのニーズが変わるという話は良くわかった。だが、エチオピアで参加型計画作りが進められているのは現場の必要性というよりも、政治的な目的によるものであるとのことでした。エチオピアの地方分権化、民主化が進んでいるということを国民に対して示すため、そしておそらく国際社会に対してあらわすために、住民参加型の計画作りを進めているとのことでした。エチオピアは十数年前まで軍事政権の圧政に苦しんでいた国なので、現政権としては、国民に対して民主的なイメージを強く示したいのでしょう。また、国際社会(特にドナー諸国)に民主化への取り組み姿勢を明確に見せることで、より多くの援助を引き出そうという意図があるのかもしれません。いずれにせよ、これがエチオピア政府が「住民参加型計画作り」を進める本音なのでしょうか。もしそうだとすれば、参加型計画策定支援のために、国際機関やドナー諸国が多額の資金を費やして技術協力事業を進めているのは滑稽に見えます。これからもずーっと「参加したふり、されたふり」を関係者の間でただ繰り返すことになるのでしょうか。

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