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政治発展の模範になろう

政治発展の模範になろう

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国際協力の仕事を続けて20年以上たちました。途上国の貧困問題の解決に向けて、少しでも貢献しようと試行錯誤してきました。これまで、経済開発を進めて国を豊かにすることが貧困をなくすための手段だと信じてきました。国際協力=経済協力であり、経済発展を迅速に進めるために、人材をどう育成するか、インフラをどう整備するか、制度をどう改善するかといったテーマが論じられてきたように思います。しかし最近、経済発展だけでは貧困問題の解決に結びつかないような気がしています。むしろ経済発展のおかげで、貧困問題がさらに深刻になることもありうるのではないかと考えています。こう考えた理由は、途上国内の所得格差の存在です。格差問題は経済発展だけではどうにもならないように見えます。

経済発展してきた途上国

私がこの仕事を始めたころ、先進国と途上国とは明確に分かれいました。「欧米+日本」が豊かな援助国、それ以外は貧乏な被援助国といったイメージでした。ところが、過去20年間の間に、欧米や日本以外の地域で、様々な国が経済成長を実現させました。1990年代だったら韓国、台湾、シンガポール、香港の四地域がNIES (newly industrialized economies)と呼ばれ脚光を浴びました。2000年代に入ると、BRICSが注目を集めます。BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの五か国の頭文字を集めた言葉です。つづいて、2010年代にかけて、アフリカ諸国においても経済成長が進むようになります。私は2012年から2014年にかけてエチオピアの首都、アジスアベバで仕事をしていましたが、当時でも建築ラッシュはすさまじいものがありました。ホテル、オフィスビルがどんどん作られ、新たな高速道路や路面電車まで短期間に建設されました。中国からの投資がその引き金になったことは周知のとおりです。

経済発展の恩恵を受けない貧困層

ただ、好調な経済成長が人々の生活を豊かにしていったかどうかは怪しかったです。2年間の間に、アジスアベバの治安は目に見えて悪化してきました。もともとエチオピアはアフリカの中では治安が良いといわれていた国ですが、外国人を狙った強盗事件などが目立ってきました。また、道には物乞いや子供の物売りがどんどん増えてきました。休日に町を30分も歩いていると、乳児をかかえた母親の物乞いや、チューインガムやポケットティシュを売りに来た子供に、何度も何度も取り囲まれたものでした。現地で一緒に仕事をしていたエチオピア人の話では、地方の貧困層が仕事を求めて首都にやってきたけれど、教育もなく、なんの仕事にもつけず、生き抜くためにこうしたことをしているのだそうです。

2014年からはインドネシアのジャカルタで仕事をしています。もちろんエチオピアと比べたらインドネシアは格段に豊かな国です。ショッピングモールには高級品があふれ、道路には高級車が連なっています。しかし、経済発展で貧困問題が解決されてきたのかといえば、かなり怪しいです。ジャカルタの北西部には大きなスラム街があるのですが、先日は政府がこれを強制撤去したという話がニュースになりました。地方から出てきた家族が住み着いていたようですが、追い出されても行くところが無いと嘆いていたようです。

また、私の職場で雇っているドライバーに話を聞いても、庶民の暮らしはだんだん悪化しているようです。物価はどんどん高くなって、賃金は頭打ちで、生活は年々苦しくなっているようです。このドライバーは、かつて大手のタクシー/ハイヤー会社で働いていました。空港から市街地まで、この会社の車で送ってもらうと日本円で4000円弱かかります。しかし、ドライバーの手取りは、一回あたりなんと150円ほどだそうです。ものすごい悪条件で働かされています。しかしそんな条件でも、この会社で雇われたいドライバーはいくらでもいるようです。町には定職のないドライバーがあふれています。だから会社としては、一回、150円以上の手当てを払う必要がないのでしょう。こんな感じの企業はきっとジャカルタで珍しくないと思います。

近年の途上国を見ていると、豊かな人々はどんどん豊かになって、貧しい人々は貧しくなるばかりに見えます。貧困は世代を通じて連鎖してゆき、貧しい家庭で教育を受けずに育った子供には、成長の恩恵などうける機会もなさそうです。こうした子供たちが成人しても事情はかわらず、犯罪や、場合によってはテロ集団に巻き込まれてゆくことになるのかもしれません。

格差是正は政治の問題

私は経済発展だけでは、こうした格差の問題は解決には向かわないと思います。国内の所得格差を是正するのは政治の問題ではないでしょうか。いくら経済発展を実現したとしても、成熟した民主主義体制の下でないと、格差の問題にはメスが入らないのではないでしょうか。

日本国憲法では国民の生存権が保証されています。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と明記されています。労働者の権利は労働基準法、最低賃金法を根拠に守られることになっています。何らかの理由で働くことのできない人々は、生活保護法に基づき、最低限度の生活を保障されます。こうした権利は、日本国民が自然に得たものではないはずです。これこそが、明治以降の近代化の流れの中で先人が血と汗を流して培った民主主義体制ではないのでしょうか。

もちろん日本でも「ブラック企業」、「ブラックバイト」といった悲惨な労働環境が存在することは否定できません。また「保育園落ちた日本死ね」というメッセージに象徴されるような社会の矛盾も抱えています。しかし、世界の途上国と比べたら、日本の民主主義の成熟度が高いレベルにあることは疑いないです。

政治発展のモデル

途上国では、経済発展は進んでるものの、民主主義とはいいがたい体制にある国々が多いです。一党独裁体制、財界と政界の癒着、王族や少数の富裕家族による天然資源の独占といった状況下では、人々の生存権など政治家の関心事項には入らないように見えます。

アジアの中では。日本は高度な経済発展を達成した国です。また、それと同時に、成熟した民主主義を築き上げた国でもあります。アジアの周辺国にとって、日本は経済発展のモデルであると同時に、政治面の発展のモデルになっているはずです。労働者の権利はどう守られているのか、貧困層の医療費はどう補助されるのか、所得格差はどのように是正されているのかといったテーマについて、アジアの周辺国の人々は日本に関心を示していることでしょう。かつて日本が社会保障制度や行政監視制度をドイツやスウェーデンから学びました。これからは、日本がこうした面での模範をしめしてゆかねばならないと思います。

これまで日本は経済発展のモデルとして途上国に大きな影響を与えてきました。今後は、成熟した民主主義を築き上げた「政治発展」のモデルを、途上国、特に近隣のアジア諸国に示してゆく使命があるのではないでしょうか。

 

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