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ODA技術協力の目的(2/2)

ODA技術協力の目的(2/2)

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1/2から続く。

現地政府職員は貧困削減の意思があるのか

ž   貧困国では、特にサハラ以南アフリカ(以下アフリカ)のような地域では、民間部門が脆弱であり、大卒が就職できるような正規の雇用機会がとても限られています。だから大卒は多くが政府部門に就職します。つまり政府職員になるのはエリートの証です。大学進学率も数パーセント以下でしょうし、政府職員は本当に特権的な階級だと言えます。大学まで進学できる人は裕福な家庭の子弟が多いはずです。あるいは、親族から資金支援を受けて、親族の期待を背負って大学進学した者も少なくないでしょう。特に、中央省庁の管理職候補者などは海外留学の機会が与えられることが度々で、局長、部長などのポストには、欧米の大学で博士や修士号をとってきた人が多いです。

ž   こうした大卒エリート、特に欧米大学の学位取得者は、当然ながら欧米諸国の社会経済事情に強い関心があります。英語力は優れているため、日ごろから英字新聞や英文雑誌で議論されるテーマに精通しています。行政分野でも、欧米諸国で話題になっているような先端的な経営手法などに興味があり、そういったものを自国で試してみることに関心があります。こうしたエリートが、自国の貧困地域の人々の生活改善にどれだけ関心があるのか、実は怪しいです。貧困層を取りまく環境に心を痛めるのではなく、むしろ蔑視しているのではないと思わせるような発言がでてきたりします。中央省庁のエリートは、靴を汚して貧困の現場に行くような活動に強い抵抗を示すと言われます。そんな仕事はイギリスで博士号をとってきた自分のやることではないと思っているのでしょうか。

ž   あるいは、たとえ本人が貧困削減に意欲があったとしても、親族がそれを歓迎しないかもしれません。特に、大学進学にあたって当人を資金支援したような親族にとしては、当該職員は期待の星であり、何らかの見返りをくれるはずの存在です。貧困層の生活改善といった如何にもカネにならなそうな仕事よりも、利権や許認可権につながって、親族に便益を提供してくれるようなおいしい仕事に携わることを願っているでしょう。アフリカには、歴代の大統領が海外で不正蓄財を続けているような問題のある国がたくさんあります。こうした国では下級公務員であっても汚職や不正行為に手を染めるのが当たり前になっています。貧困層の生活向上を支援するより、貧困層からリベートを搾り取ることに熱心になる政府職員がいてもおかしくないです。こんな環境では、政府職員を上から下まで眺めても、貧困削減に本気で取り組む意思のある政府職員がどれだけいるのかわかりません。

現地政府職員は貧困問題を理解しているのか

ž   世界には国の数よりも多くの民族、部族がおり、固有の言語や風俗習慣を保持しています。かつてヨーロッパ諸国に植民地支配を受けた国では、国境がヨーロッパ諸国側の都合で設定され、民族分布と国境線が一致していないことがあります。特にアフリカでは、多くの国がこの不一致を抱えています。こうした旧植民地国では、国民という意識を醸成することが容易ではないです。首都から車で1時間ほど移動しただけで、言語も生活習慣も全く異なる部族が居住していたりします。かつてケニアのナイロビから近郊の地方都市に車で出かけた際、しばらくしたら異なった部族が居住する地域にはいってしまい、運転手さんが地元の人に道を尋ねるにも苦労していました。特に、交通インフラが未発達だと、人々の移動が制限され、一国内の異民族が交じり合う機会も限られます。

ž   こうした状況では、中央政府の官僚は地方で言葉も習俗も異なる人々のことは良くわからないでしょう。もちろん現地の出先機関を通じて、人口、食糧生産量とか就学率、上水道普及率といった各種のデータは手にするでしょうが、貧困の実態やその要因を把握することは困難だと思います。もしかしたら異民族の事情に特に強い関心もないかもしれません。

ž   国際機関であれ先進国政府であれ、開発援助機関が事業を提案したり協議したりする相手は基本的に中央省庁の幹部職員です。かりに、遠隔地の貧困地域の生活改善を目的とする事業を提案した場合、中央省庁の職員が当該地域の実情を良く把握しているとは限らないです。情報不足や思い込みから現地のニーズにそぐわない事業が形成されてしまう可能性があります。

貧困層は現地政府の支援対象になるか

ž   途上国の都市にはスラム街と呼ばれる地域があることが多いです。もともと農村に住んでいた人々が生活苦から都市に流入してきてスラム街を作ってゆきます。私有地には入れないので、多くの人は国有地などに入って、粗末な家屋をつくって居住します。土地の所有権も使用権もなく、当然ながら違法居住者です。スクワッターと呼ばれる人々です。都市と農村地域の生活水準は開くばかりなので、都市部に流入してくる貧困層は後を絶ちません。スラム街は拡大し、スクワッターは増えるばかりです。

ž   こうしたスラム街の貧困層は政府機関の支援対象にはなりにくいです。なぜならそもそも不法な居住者なので、こうした地域に行政サービスを提供することは、居住権を認めたことに繋がってしまうからです。したがって電気、上下水道といったライフラインが敷設されることはなく、小学校や病院が設置されることもないです。

ž   こうした都市部の貧困層に対しては、ODAの技術協力では手がでません。極貧の厳しい生活をしているスラム住民が目の前にいても、政府職員を対象とする技術協力では、何もすることができません。たとえ、政府職員の能力向上を進めても、政府機関がサービス提供できないからです。だからスラム街で支援活動を行うのは、もっぱらNGOということになります。

援助機関側は貧困削減を真剣に考えているのか

ž   開発援助を行うために設立された援助機関が、貧困削減への意欲を持っているかどうかといった問題設定は不毛に思えます。意欲を持っているのが当たり前かもしれません。しかし、援助機関の中には、そしてそれを取り巻く関係者の中には、いろいろな意図を持っている人がいます。その中には、貧困削減よりも、他の優先事項を持つ人がいたりします。

ž   その一例は、アカデミック志向の強い関係者です。援助機関の役職員、専門員、アカデミックアドバイザーなどいろいろな立場の人が関係者となります。こうした人々は、途上国の貧困層の生活向上を進めるには何が必要かという視点よりも、何らかの社会経済開発の手法を試してみたいという視点の方が強いように見えることがあります。例えば、参加型開発について大学院で研究して博士論文まで仕上げてみた、これを是非途上国の現場で実践して効果を確かめてみたい、といった人々です。手法の原理原則に忠実になるがあまり、現地の人々にとってそれが適切かどうか、必要かどうかといった視点が忘れられてしまいます。公共財政管理の分野にもこういったタイプの人が良くいます。先進諸国では新公共経営という名前のマネジメント手法を行政府が取り入れることがはやりですが、途上国でもその導入を試みます。膨大な時間と費用を投じて、検証なり実験を行いますが、結果がでるとすぐに撤収してしまいます。そもそもこうした人々は、何をしに来たのか、現地の貧困削減に関心があったのかと疑問に思ってしまいます。

ž   二年ほど前にアフリカの某国で、現地に駐在している国際機関の職員と、新公共経営の手法の導入の是非めぐって議論したことがあります。この国際機関職員も、現地国の政府職員にとってその手法が煩雑すぎるとはわかっていました。当該国際機関の技術協力が終了してしまえば、現地政府がこれを普及させることはとても難しいだろうとは思っていました。しかし、その職員はこの手法の導入にこだわっていました。私は、もっと基礎的な内容の指導の方が適切ではないかと言いました。しかし、この職員によれば、基礎的な技術協力では、とても当該国際機関の技術協力プロジェクトのテーマとしては認可されないとのことでした。優れた先進的で画期的な手法を外から取り入れ、3年間なりのプロジェクト実施期間中に、パイロット地域で目に見える成果をだしてこそ、まっとうな技術協力だという考え方です。

ž   援助機関の職員や専門員等の中で、こういったアカデミック志向が強い人が多いとは思いたくないです。しかし、技術協力の現場でこの種の人々を目にすることが結構あります。先進国の手法に関心が高い現地政府のエリート職員と、こうしたアカデミック志向の強い援助機関職員は親和性が高いです。両者が手を結ぶのは、現地の貧困削減を進めるうえで、最悪のシナリオに見えます。何千万円、何億円という資金を投じながら、貧困層に届かない開発援助ってなんだろうと思ってしまいます。

我々はどうしたら良いのか

ž   開発援助の業界に入るのは、途上国の貧困削減に意欲があるからです。NGOとして直接に貧困層に支援するのはインパクトや持続性の点で限界があります。ODAとして政府職員の能力向上を支援するというアプローチをとれば、多くの貧困層に持続的な支援を提供することができます。これがODAの技術協力のメリットなのですが、これまで述べてきたように、そのためにはいくつかの前提条件があります。

ž   前提条件が満たされていないと感じたとき、我々はどうしたら良いのでしょうか。あくまで貧困削減にこだわって現地政府エリートや援助機関側の出す方針に逆らうか?現地政府エリートや援助機関側の意図を汲み取って、貧困削減には目を逸らし、指示されたとおりに活動を進めるか?なんとか頑張って、両者の説得を試みるか?あるいは、あきらめて荷物をまとめて帰国するか?私にもどうしたら良いのか妙案が思いつきません。我々はこんな時、どうすべきなのでしょうか。

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