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マイクロファイナンスとは(後編)

マイクロファイナンスとは(後編)

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⇒前編から

続いて、貸付とならんで、マイクロファイナンスのサービスである貯蓄について整理しました。また、マイクロファイナンスについて良くある疑問について回答をまとめてみました。 

貯蓄サービス

貸付とならんで、むしろ貸付以上に貧困層から必要とされる金融サービスは貯蓄です。

貧困層といっても、一年中、常に窮乏状態にあるわけではありません。ある時には余裕のある生活を送ります。そして、ある時には家族の生き残りに最低限の収入しか得られないような窮乏状態に陥ります。こう考えるのが自然です。

貧困層は困窮時に備えた蓄えが如何に重要かを、切実に理解しています。そのため、貯蓄の努力をします。たとえば、現金をマットレスの下に隠したり、貴金属を身につけたり、家畜を購入するなどします。しかし、貧粗な家屋の中に現金や貴金属を安全に隠す場所があるわけもなく、すぐに盗難にあってしまいます。あるいは、自分が小金を貯めているといった情報はすぐに近隣に知れ渡ってしまい、近親者などから執拗に無心されます。

家畜に投資することも貯蓄の重要な手段です。家畜(live stock)は文字通り「生きた」「備蓄」です。しかし、疫病がはやれば、「生きた備蓄」は瞬時に失われてしまいます。また、納谷に穀物の形で備蓄しておいても、水害などにあえば終わりです。こうして、一時あった余剰資金はどんどん減ってゆきます。

貸付のケースでもそうですが、銀行は貧困層にとって貯蓄の場とはなりません。多くの場合、銀行は一定金額以上の預金額がないと、口座維持手数料をとります(日本でもシティバンク銀行がそうですね)。ある程度まとまった資金を預け入れるのでなければ、銀行口座に預けておくほど資産が減ってしまいます。都市部にある銀行の支店にまでゆく交通費もバカになりません。そもそも、文字や数字がわからなければ、通帳などをもらっても意味がありません。

本当に生活に困ったときに貯蓄がなければ、家族が生き残る唯一の手段は高利貸から借り入れを受けるしかありません。相手が悪質な業者ならば、無謀な高金利を設定され、結局は返済不能状態に陥ります。そうなると、土地や家屋を取られたり、長期にわたって隷属的な使役を課されることになります。

前述のように、マイクロファイナス事業者の担当スタッフは貧困層の住む場所に来てくれます。毎週の集会の場でメンバーから貯蓄を集めます。集まった貯蓄は銀行に預金されるなど、安全に保管されます。貯蓄を引き出す必要があれば、集会の際に担当スタッフに申し入れればOKです。マイクロファイナンス事業者は貧困層に対して、安全で利便性の高い貯蓄サービスを提供することができます。

なお、途上国によっては、貯蓄専門の回収業者がいます。私は西アフリカのガーナの事例しか知りませんが、スス(Susu)コレクターという業者が、毎日毎日顧客のもとを訪れ、数百円程度の貯蓄を集めます。利子はつかず、むしろ手数料を業者に徴収されます。それでも事業として成り立つということは、貯蓄サービスがいかに求められているかを物語っています。

マイクロファイナンスに対するQ&A

マイクロファイナスは貧困層を対象とした事業ですが、慈善事業ではありません。あくまでビジネスとして成立していることが前提です。そうでないと何年も続かないし、事業が拡大しません。「マイクロファイナンスはビジネス」というと、貧困支援=慈善事業と思われる方から、いろいろ誤解されることがあります。そうした方々から良くある質問について回答をまとめました。

Q1: 非常に貧しい人々(極貧層)には貸付するのか?

答えはNOです。非常に貧しくて、何らかの理由で経済活動を営む機会を奪われているような人々に対しては、貸付を行いません。例えば、HIV/AIDの罹患者で十分に働くことが出来ない人々、天災や紛争を逃れてキャンプたどり着いたばかりの難民といった人々です。こうした人々を支援するには、貸付でなく贈与であるべきです。あるいは職業訓練といった技術協力も必要でしょう。返済能力の無い極貧層に貸付をおこなうのは、むしろ無責任な行動です。アラブの古いことわざで「本当に貧しい人にはお金を貸してはいけない。あげなければいけない」というものがあるそうです。そのとおりです。

マイクロファイナスで少額貸付するのは、借入金を使って何らかの経済活動を行い、収入を増やす能力がある人です。マイクロファイナンスの典型的な顧客像は、都市部では零細企業家です。自宅などで手工業や小売業などの雑多な小規模ビジネスを営んでいる人々です。また、農村部では、小農でありながら他の経済活動によって副収入を得ているような人々です。自らの収穫物を原材料として食品加工業や、畜産、養殖、小売業などの副業を営んでいるのが典型的な顧客像です。

もちろん、途上国の中でも富裕層を対象とするものでもありません。日本円で100万円程度の借入が必要な企業家は、通常の商業銀行か、中小企業を専門とする金融機関に借入を申し込むことになります。大手のマイクロファイナス事業者の中には、マイクロファイナスを「卒業」してビジネスに成功した顧客を対象に、系列銀行を別に持っているところもあります(例:バングラデシュのBRACとBRAC銀行)。

Q2:貸付金利は低めに設定するのか?

これも回答はNOです。貧困層相手だからといって、金利を低めに設定することはありません。貸付金利は銀行の貸付金利と同等か、少し高めに設定されていることが多いです。もともと、小口貸付は手間がかかり経費は大きいです。前述のように、1万円を100人に貸し付ける方が、100万円を1人に貸し付けるよりもよほど手間がかかります。いくら効率的に業務を行うとしても、通常の銀行金利よりも低い金利を設定したら、事業として成り立ちません。

もちろん、慈善事業としてマイクロファイナスを実施する団体も存在し、低金利で貸し付けを行うケースもあります。しかし、こうした事業はやはり持続性がなく、せいぜい5年くらいで消えてゆきます。また、政府系金融機関が農村開発政策の一つとして農民に低利融資を行うこともあります。しかし、こうした「甘い話」は貧困層のところにはなかなかとどかないものです。村長といった村の有力者が情報を独占してしまい、身内だけで融資枠を抑えてしまいます。低金利の融資は政治力のある者に、通常金利の融資は本当に資金を必要とする者に届きます。特に農村部のような閉鎖社会ではその傾向が強いと思います。

膨大な貧困層を相手にサービスを提供するためには、事業の持続性の確保は重要です。そのためには、事業として成り立つ水準に金利を設定することが必要です。

もっとも、マイクロファイナンス事業者の金利は、高利貸業者の金利と比べればよほど低いです。貧困層にとっては、銀行金利であっても、借入を得られることは大きなメリットになります。

Q3:技術協力の一環として少額貸付を行うのは適切か?

これも回答はNOです。かつては、こうした少額貸付は良く見られました。たとえば、有機農法を普及する技術協力プロジェクトがあり、その農法の導入を支援するために、対象者に少額貸付するようなタイプです。あるいは、女性の生計支援を目的として縫製や養蜂といった職業訓練を行い、その後に各自がミシンなどの器具を購入する資金を少額貸付するといったタイプです。しかし、こうした「ひも付き」の貸付は良くありません。なぜなら、事業が失敗したときの返済責任が、どうしてもあいまいになるからです。

たとえば、技術プロジェクト関係者のアドバイスにしたがって、対象住民が少額を借り入れ、有機農法を導入したとします。何らかの理由でこの農法が失敗して、収入がえられず、借入金の返済ができなくなったらどうなるのでしょう。借りた側からすれば、あくまでプロジェクトの指導にしたがっただけで、自分が返済に責任があるとは思わないでしょう。プロジェクトの側も、自らのフトコロが痛むわけでもないので、こうしたトラブルはうやむやにしてしまいがちです。結局、5年間のプロジェクト期間が終われば、貸付資金はどっかに消えてしまい、それで終わりです。持続性などありません。

また、そもそも、農業の技術協力プロジェクトの一部として貸付をしているので、メンバーの多くは農業専門家です。金融業務に詳しいメンバーが入っているとは限りません。こうしたプロジェクトでは、返済された資金をつかって、次の顧客に貸し付けをするような、永続的な流れが想定されています。しかし、そのための仕組みを作り上げるような金融のプロが、最初からプロジェクトメンバーに入っているケースは見たことがありません。

このように、技術協力の一環として少額貸付を行うことは、今では世界的に推奨されていません。実際、10年くらい前に、多くのドナーがこうしたアプローチをやめています。まだ続けているのは国連専門機関の一つである国際農業開発基金(IFAD)と日本の政府開発援助くらいだと聞いたことがあります。

今後の展開

今後、というよりも、既に世界的に進んでいる展開ですが、マイクロファイナスの分野がどんどん広くなっています。貸付や貯蓄だけでなく、送金、保険などに取り組む事業者が増えています。特に貧困層を対象としたマイクロ保険へは注目が集まっています。私は詳しくはないのですが、少額の生命保険とか天候不順に備えた保険商品などが開発されているようです。

また、マイクロファイナンスのICT化も進んでいます。特に携帯電話を使った送金や貸付、貯蓄サービスが普及しています。今では農村部の貧困層でも携帯電話は持っています。携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)機能を使って、送金や借入金の返済などを行っているようです。日本のインターネット銀行の類だと思います。ATMが無いところでは、コンビニやガソリンスタンドといったところが、出入金業務を代行しているそうです。この分野でも展開が早いので、なかなかキャッチアップするのが難しいです。

おわりに

マイクロファイナンス事業者ではバングラデシュのグラミン銀行が有名です。その創設者のユヌス氏はノーベル平和賞を受賞しています。日本でも彼の自伝などがいろいろ出版されています。ただ、途上国におけるマイクロファイナンスの仕組みについて、包括的に説明した書籍はあまりみかけません。少し古いですが、ご関心のある方へは下記の書籍を推薦します。Amazonなどで検索してみてください。

『よくわかるマイクロファイナス』DTP出版、2009年

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