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新公共経営手法についてのワークショップ

新公共経営手法についてのワークショップ

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先週末のことですが、アジスアベバ近郊の町で一泊二日のワークショップに出席してきました。主催は連邦政府ですが、資金は某国連機関が出しています。この機関の職員から招待を受けて出てきました。テーマは新公共経営手法のエチオピアへの適応についてです。出席者は連邦政府職員が4名、国連機関から3名、州政府職員が1名、そして私でした。私はエチオピアの地方自治体を相手に新公共経営の導入に関する技術協力プロジェクトを担当しているので、その経験を参加者の皆さんにお伝えすることが求められていました。その時の様子をご報告します

エチオピアと新公共経営

エチオピアを含め、多くのアフリカ諸国では、新公共経営手法の導入が進められています(背景はコラム「低所得国と新公共経営」をご覧ください)。業績成果管理(RBM: Result Based Management)の導入が連邦政府の主導で進められてきていますが、この他に、アメリカで開発された二つの戦略経営手法の導入が進められています。一つはBusiness Process Reengineering(BPR)と言い、様々な業務プロセスの手順を再検討し、顧客の満足を最大化させるための業務の効率化を実現しようとするものです。もう一つはBalanced Score Card (BSC)といい、2年ほど前から全国で導入されています。BSC手法とは、組織のビジョンやミッションを経営戦略に落とし込み、職員全員が一丸となってこれを追求する体制を構築しようというツールです。「顧客」「財務」「業務プロセス」「能力向上」の四つの視点から経営戦略を整理することがポイントとなっています。

両者とも本来は民間企業のコンサルティング手法として開発されたもので、行政機関を想定したものではありません。しかし、その後、行政機関でも適用可能であることが認められ、様々な国の政府で導入されるようになっています。日本でも、例えば三重県立病院でBSC手法が導入され、赤字経営からの脱却に役立ったようです。ただBSCの行政での導入は、公立病院とか運転免許交付センターとか、特定のサービスを提供する機関が行うことが多く、国全体の行政府がこれを導入したという話は聞いたことがありません。理論的に不可能ではないのでしょうが、大変に意欲的な取り組みだと言えます。エチオピアのような貧困国でチャレンジするテーマとして適当かどうかはなはだ疑問です。

私が出席したワークショップも、特にこのBSCがエチオピアの行政機関で導入されるにあたり、どういった問題が現れているか考えることが目的でした。さらに、現場の行政官の間でRBMとBPR、BSCとの間に概念の混乱が生じているので、これを整理することも目的でした。

ワークショップでの熱論

ワークショップの議論の詳細は割愛します。結局、RBMとBPRとBSCの概念は背反するものではなく、相互に補完しあうこと、特にBSCの適用の弱点を補うものとしてRBMが活用できることが確認されました。エチオピアの連邦政府のエリートらしき人々が集まった会議だったので、議論は活発で、たぶんに知的なものでした。私などは皆さんの知的な議論についてゆくのがやっとでした。しかし、議論が活発であればあるほど、私の頭の中には???が膨らんでゆきました。「連邦政府のエリートでさえ、熱く議論しなければならないようなテーマが、地方の町役場、村役場の職員に容易に理解されるはずないでしょう・・」、「BSCの導入から2年もたっているのに、まだこうした議論がされているのはおかしいのでは・・」、「この種の議論はBSCの導入前にやっておくべきでしょう・・」。地方自治体の現場で、役場の職員を相手に仕事をしている私としては、知的な議論が盛り上がれば盛り上がるほど、自分には縁遠い感じがしてしまいました。

新公共経営導入への否定的見解

私を招いてくれた国連機関の職員は、連邦政府のエリートほどには、新公共経営手法の導入に確信がなく、その妥当性に迷っているようでした。エチオピアに新公共経営手法を導入した効果についても、肯定的見方と否定的見方に分かれているそうです。ワークショップの後で、両者の代表的論文を見せてくれましたが、なかなか面白いものでした。特に、否定的論文は、私が日ごろ思っていたことをストレートに論じていて興味深かったです。下記がその要旨です。

・新公共経営手法は数十年にわたって行政制度の整備を続けてきた一部の先進国で効果が現れているものである。

・制度も整備されておらず、職員の能力も十分でないエチオピアで、新公共経営を導入しても効果が現れるわけがない。

・新公共経営は住民の満足度を高めることが行政の大きな課題と受け止められているが、これは民主的な統治が前提となっている。

・一党独裁国家で行政府の首長が党から任命されるようなエチオピアにおいては、行政機関が住民の満足度を重視して、改革を進めるには限界がある。

http://elibrary.ossrea.net/collect/admin-eassrr/archives/HASH01cd.dir/doc.pdf

民主化の遅れのごまかし?

この論文を書いたのはアジスアベバ大学に所属している欧米人の研究者ですが、ずいぶん思い切ったこと文章にしたと思いました。エチオピア政府が新公共経営手法の導入に熱心なのも、実は、民主化の遅れに対する国民の不満を逸らすのが目的なのかと考えてしまいました。「政治体制は民主的じゃぁないけど、行政機関は住民の皆さんの満足度を高めるように努力しているから勘弁してね」といったメッセージでしょうか。

新公共経営と並んで、エチオピア国政府は参加型計画作り(participatory planning)にもやたら熱心ですが、これも、国民の民主化への不満を逸らすためにやっているのかもしれません。

話はちょっとそれますが、昔、高校の世界史(あるいは倫社?)の授業で社会主義、共産主義の導入のことを学習したことを思い出しました。たしかマルクスは、社会主義は資本主義の発展段階の次にくるもので、イギリスのような先進的な資本主義国が必然的に導入してゆくものと主張していました。しかし、実際には、ロシアや中国といった資本主義が十分に発達していない国で採用されてしまい、その結果、社会主義で描かれていた理想は実現しなかったといったことだったと思います。民主化も実現してなく、行政構造も整備されていないアフリカが、新公共経営手法を導入するのは、ロシアが社会主義を先走って導入してしまった過去と同じようなものかもしれません。だったら、やはりいずれ失敗することになるのでしょうか。

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