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ワシントンVS ペキン

ワシントンVS ペキン

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世界の豊かな国を集めてG8というグループが作られています。同じように、開発援助の世界にもOECD DACというグループがあります。メンバーは、ほとんどが欧米諸国です。OECD DACでは援助の方向性やアプローチなどが議論されていますが、欧米諸国の主張がベースとなることが多いです。OECD DACでは、これまで新古典派経済学を基盤とするアメリカ政府やワシントンに本部がある国際金融機関の主張が強い影響力を持っていいました。だから、こうした欧米の主張はワシントン コンセンサスなどと呼ばれていました。日本は、必ずしも常に欧米の主張に同意するわけではなかったのですが、OECD DACのメンバーとして、これにしたがってきました。ところが、近年になって、ワシントン コンセンサスなんかは全く意に介さずに援助をする国が出てきました。それは中国です。中国の援助のロジックは、欧米とは全く異なっています。だから、こうした中国の態度を揶揄してペキン コンセンサスなどと呼ぶ人もいます。 

ワシントン コンセンサスとは、一言で言えば市場経済の原理を重視する戦略です。貿易、投資の自由化、公的部門の民営化、政府介入を極小化などが求められます。途上国の開発に際しても、政府が積極的に経済活動に参加することは奨励されません。国営企業を作るなどはもってのほかです。運輸、エネルギーといった経済インフラも、民間の力を活用して(民活)、整備することが目指されます。政府の介入は初等教育とか、保健医療といった、民間企業が参入しにくい分野に限定すべきとされます。特に、低所得国では、MDGs(ミレニアム開発目標)の達成が重視されていますので、教育や保健に優先的に予算を配分することが順当と思われてきました。低所得国に対する欧米諸国の援助も、初等教育や保健セクターに集中しています。経済インフラへの支援は、最近はあまり本格的には行われていませんでした。

ところが、中国はこうした欧米諸国の援助と全く逆のロジックで援助をしています。教育や保健、医療といった分野はさほど重視せず、運輸、エネルギー、通信などの経済インフラ支援を大がかりに進めています。低所得国の政府に対して、日本円で何百億円という多額の資金を貸し付けて、大規模なインフラ開発を支援しています。中国はOECD DACのメンバーではないので、OECD DACの取り決めにはとらわれずに、自由に行動することができます。中国のこうした自由な援助に対して、欧米諸国は驚いたり、苦々しく思ったりしています。

ただ、低所得国の政府側の反応を見ると、こうした中国の支援は概ね歓迎されています。「教育や保健医療が重要なことはわかるけれど、経済インフラを整備しなくては民間企業の投資を呼び込むことが出来ない。企業投資が無ければ国が成長できない」「中国は、経済インフラの整備のために資金を提供してくれるのでありがたい」というのが、低所得国の政府側からよく聞かれる発言です。欧米諸国もこうした発言を受けて、従来のアプローチが良かったのかどうか、確信が持てなくなっている様子が見えます。まさに、ワシントン コンセンサス VS ペキン コンセンサス といった様相です。

しかし・・・日本の開発援助関係者は、こうしたワシントンとペキンの対立を受けて、複雑な思いを持ってしまいます。ワシントン コンセンサスの方向性や、その後の教育と保健医療の重視の姿勢に対して、日本は100%同意していたわけではありません。決して、正面から反対していたわけではないのですが、経済インフラを整備して国の成長を促すような支援も大切だと常々主張してきました。ただ、他のOECD DACメンバーから仲間はずれになるのを恐れていたので、おのずと主張が小声だったかもしれません。だから、ワシントン コンセンサス VS トウキョウ コンセンサスといった論争には、決してなっていませんでした。たとえ、なっていても、日本の開発援助関係者には、こうした論争に必要な理論武装の準備は十分ではありませんでした。

今になって、ワシントン VS ペキンの構図の中で、日本の立ち位置を模索しているような感じです。開発援助をめぐる国際的な潮流の中で、日本が置いてきぼりにならないように、我々は早く自らの立ち位置を定めてゆかねばならないです。日本の開発援助研究者に強いリーダーシップを求めたいです。

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