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ラオス人の憂鬱

ラオス人の憂鬱

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ラオスはインドシナ半島にある内陸国です。人口は600万人程度でしょうか。中国、ベトナム、タイ、カンボジアと国境を接しています。ASEANの加盟国であり、日本とも結びつきが強いです。私は、2007年から2010年にかけてラオスに頻繁に出張していました。財務省職員相手に業務マニュアルをつくり、これを使って地方事務所の職員の研修を行うという仕事でした。地方といっても遠隔地にゆくことが多く、中国国境の最北県にも、カンボジアに接する最南県まで行ってきました。首都でも地方でもいろいろなラオス人にあって話を聞くことができました。その時に感じたことをまとめてみます。

ベトナムの弟分

政治的には、ラオスはベトナムと関係が強く、いわば弟分です。1970年代のベトナム戦争中は、一応中立を保っていたものの、実質的には北ベトナム軍のバックヤードとして機能していました。そのため、全土にアメリカ軍の爆撃を受けました。いまでも戦争のなごりはあり、不発弾の処理や、米兵の遺骨収集などが行われています。ベトナム戦争後は社会主義国としてベトナムの傘下に入り、旧ソ連・東欧諸国と密接な関係を作ってきました。その後、ベトナムが市場経済化へと転換すると、ラオスもこれにならい政策転換しました。1997年にASEANに加盟し今日に至っています。ベトナムとの関係は現在でも強いようです。私のプロジェクトのオフィスがあった財務省の隣には外務省がありましたが、外務省のすぐ隣がベトナム大使館という具合でした。噂では、ラオス政府が新しい法律をつくると、まずベトナムに見せてこれで良いかとお伺いをたてるのだそうです。また、ラオス人の技術者不足を補うため、ベトナム人の技術者、労働者が多く入っており、政府系建物や道路などの建設を請け負っています。私がいるときに財務省の本館が新築されましたが、設計も施工もベトナム人業者とのことでした。

政治的には両国関係は親密なのですが、国民感情としては、それほどベトナムに親しみを感じているわけではありません。理由の一つは言語の違いです。ベトナム語はラオス語とは文法も語彙もまったく異なっています。両者がそれぞれの言葉で話をしても、そのまま理解し合うことはありません。ラオスにやってくるベトナム人は教育水準が高く、商才に長けているひとが少なくないです。だから、ラオス人から見ると、ベトナム人はなんとなく怜悧で抜け目がないといったイメージがあります。

タイとは親戚

一方、タイとラオスは色々な意味で近いです。ラオス語はタイ語と文法的に近く、語彙もかなり共通しています。特にタイの東北部とはメコン川を挟んで向き合っており、言葉はかなり共通しています。だからラオスではタイのテレビを見る家庭が多いです。山岳地域でさえパラポラアンテナを良く見かけます。衛星放送でもっぱらタイの番組を見ています。だから、子供のころからタイ語になじんでいます。文字は異なりますが、子供のころからタイの字を見ているので、多くのラオス人がタイの文字を理解できるようです。携帯電話などラオス字で入力できる機材が少ないので、タイ字をつかってラオス語を入力しています。そのくらい近いです。食事も共通するものが多いです。我々がタイ料理と思っているものは、ラオスでも普通に食べられます。パパイヤサラダなどは日本人にも人気のタイ料理ですが、ラオス人によればラオス料理だそうです。ただバンコクではうるち米が主食ですが、ラオスではもち米が主食です。レストランにゆくと、小さな籠に蒸したもち米がはいって出てきます。とてもおいしいです。宗教もラオスと同じ小乗仏教です。タイのお坊さんと同じような袈裟を着たお坊さんがラオスの街角でも普通に見られます。

タイの生活への憧れ

ラオス人がパラポラアンテナまで設置して、タイのテレビを見ている理由は面白いからです。ラオスのテレビはいかにも国営放送といった感じでつまらないです。軍服を着たアナウンサーが堅苦しい感じでニュースを読んでいたり、ラオス共産党の英雄の映像を延々と放映するような番組ばかりです。一方、タイのテレビはコミカルで華やかで楽しそうです。韓流ドラマみたいに美男美女がいっぱいでてきて、バンコクの高層ビルの屋上のプールで遊んでいたりします。こうした番組を毎日見ているので、タイの生活、あるいはバンコクの生活に対するあこがれの気持ちがどんどん高まってきます。女性の服装にも影響を与えています。ラオスにはシンという伝統的な巻きスカートがありますが、正直ババくさいです。首都のビエンチャンの市場にゆくと、シンを着ているのは年配女性だけで、若い女性はミニスカートばかりです。これもタイ女性の真似をしているのだそうです。

タイ人から見下される

こんなに憧れているタイなのですが、タイ人のラオスを見る目はちょっと残念なものがあります。タイの中でも東北タイは田舎者として少しバカにされているのですが、そのさらに奥にあるラオスはもっとバカにされています。ベトナム戦争後の社会主義経済のおかげで経済は発達しておらず、人々の生活も質素です。だからなおさらバカにされます。数年前にタイの有名な俳優が「世界中のどこの女性とも結婚して構わないが、ラオス人女性はお断り」と発言した事件がありました。彼は、ラオスでも人気のあるイケメン俳優だったので、この発言を聞いてラオス人女性の受けたショックは大きかったようです。また、ラオスの首都ビエンチャンでバンコクから来た女性のコンサルタントと会食したことがありますが、彼女もラオス人を小馬鹿にするような話をしていました。スーツをきてパリっとした女性で、いかにも都会人といった雰囲気が漂っていました。一緒にラオス料理を食べていたのですが、彼女はもち米を食べません。おいしいのになぜ?と聞くと、「ブスになるから」と意外な答えが返ってきました。彼女によると、もち米は粘り気が強く噛む力が必要で、これを食べ続けているとアゴの骨格が逞しくなってしまうのだそうです。だからもち米を食べてラオス人女性のような不細工な顔になりたくないとのことでした。(あと、もち米だとツイ食べ過ぎてしまい太るという心配もあるようでした)。

タイとラオスの格差

ラオスを好きな日本人は多いです。町は素朴で静かで、また人々は穏やかで優しいです。欧米人のファンも多く、バックパッカーの聖地などと言われているようです。でもラオス人、特に若い人からみたら、退屈で窮屈でつまらない国に見えるようです。ビエンチャンの金持ちは、週末は毎週のようにタイに入国し、買い物をして食事をして映画をみて、都会人っぽい生活を楽しんで帰ってきます。ビエンチャンからタイ東北部のウドンタニという地方都市まで(出入国手続きをいれても)車で3時間くらいで気軽に行けるからです。メコン川が両国の国境となっている部分が多く、橋や渡し船を使えば、ラオス人は色々な町からタイに入国することができます。メコン川沿いのタケクという町に滞在していた時に、気晴らしのために、週末に渡し船でタイに入国したことがあります。タイのナコンパノムという小さい町に入ったのですが、道路も、町並みも、建物も全て整備されていて戸惑ってしまいました。メコン川沿いもタイ側は遊歩道や街灯がきれいに整備されているのですが、ラオス川は草ぼうぼうで夜は真っ暗です。つい半日前までラオス側にいたのに、あたかも中国側から北朝鮮国境の町を見ているような気さえしました。

出稼ぎ

タイにはラオスから出稼ぎにゆく者が絶えないのです。ラオスの田舎で農業以外に何の産業もないようなところでも、意外に立派な家が建っているのも、話にきくと、やはり出稼ぎ者の送金で建てた家のようです。農村部にパラポラアンテナがやたら多いのも、出稼ぎ収入のおかげかもしれません。多くが労働ビザなどもっておらず、不法就労者だとおもいます。言葉が近く顔も同じなので、いったん入国してしまえばタイ人に成りすますのは簡単なのでしょう。ラオスとタイの間には長い国境線がありますが、両国間の密入国をとりしまるのが両国政府の課題です。密入国者の中には、人身売買の被害にあって運ばれる女性も少なくないです。私が従事していたプロジェクトのスタッフの一人(ラオス人)が、人身売買被害者保護を目的とした国連機関に転職しました。転職後、半年ほどたってから、仕事の様子を彼女から聞くことができました。彼女によると、国境地域で年間に一万人近いの密入国者が摘発されるのだそうです。一万人とは想像もつかない人数ですが、一日に約30人と思うと、そんなものかなと思いました。密入国者の中には、人身売買の被害者らしき若年女性もいるようですが、意外にもリピーターが多いのだそうです。リピーターになってしまう背景は様々でしょうが、片道切符かと思っていたのでちょっと驚きました。人身売買は深刻な問題なのですが、彼女によると両国政府ともあまり表に出したくないのだそうです。実態をつかむための資料が少ないとのことでした。啓発教材がつくれないとのことだったので、日本から「闇の子供たち」のDVDを持ってゆき、日本語の主なセリフを翻訳してあげました。これは、2008年に公開された江口洋介、宮崎あおい主演の映画(主題歌:桑田佳祐)です。このような映画を日本が商業ベースで作れることがちょっと誇らしかったです。

 

ラオスは今のまま素朴で静かな国であってほしいと願う外国人は少なくありません。ラオス人自身もそう思っている人が少なくないでしょう。しかし、反対にタイの豊かで華やかな生活にあこがれる人々の気持ちもよくわかります。今、ラオスには外国投資、特に中国からの投資がどんどん入ってきているようです。10年後のビエンチャンは高層ビルが乱立する町に変貌しているのか、それとも、素朴な町・バックパッカーの聖地のままでつづくのか、私にはわかりません。ただ、タイ人の豊かな生活をテレビでみながら、ラオス人の憂鬱がしばらくつづいてゆくのだろうと思っています。

 

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